きゃわイイ女

 嫁がかわいい。綺麗で自慢の嫁だ。籍を入れてないから正確には嫁じゃないんだけど。もう何年一緒だろうか。いつも一緒。いつもカワイイことを言って俺を楽しませる。最近、綺麗だと言わないと文句を言う。そんなに言ったら減るじゃん。

カテゴリ: 俺への手紙

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 やがて、彼は彼らの乗り物もまた登るのを感じ、父の呼吸が変わったのを聞いた。日光
が顔を打ち、彼らから木々が動き去った。そして、それらはそこにいた。彼らの車が空き地
を横ぎったとき、彼はあたりを見まわした。そこは数百万に非常に多くの人々がいるように見えた。
そこは彼には見ることのできない何かを前をむいてじっとみつめていた そこには、空き地の中に、
たしかに数百の人々が彼には見ることので゛きない何かを前をむいてじっと見つめていた。
彼は炎をみることはできなかったが煙の匂いをかいだ。そこで彼らは再び、木々の中の
空き地のもう一方の側にいた。彼の父は道からそれて他のたくさんの大きな車のうしろにに駐車した。
「だいじょうぶか?」と父は聞いた。「イエスサー」と彼は応えた。「よし、それではおいで」
と父は言った。彼は手を伸ばして母の側のドアを開けた。母が最初にとび出した
彼らは母のあとについて空き地へ向かった。第一に彼はちょっとした混乱に気づ
いた。父と母があいさつしたり、されたり、彼自身が、さわられたり、だきしめられたり
軽くたたかれたり、彼がいかに大きくなったかを告げられたりしたのだった。風が
火から出る煙を空き地をわたって、彼の目と鼻へふき寄せた。彼は前にい
る人々のうしろを見やることができなかった。笑い声や雑言や怒なり声や他のなにか
が暴徒の群の前から後へ波のように次から次へと伝わってきた。前の方の
それらの声は、彼らが見た何かについてのよろこびを表現し、これらのよろこびは
後ろの方へ波をくりかえして伝わってゆき、煙よりも激しいのだった。父は突然下に 





 人々の集まる祭りか集会のようなところへ駆けつけた親子。

 知り合いもいたのだろう。

 火が燃えて、煙が立ち込めている。


 躍動感がある描写なのだろうというのは想像がつく。それでも、嫁はこの訳をやはり淡々とやっている。

 子供の目線で語られるその現場はよく見えないのだから、冷静な感じではないはずだ。

 嫁も子供のようなものだから、それがあまり分からなかったのかも知れない(笑)。


 この文学のこういうところ、マークトェイン的な感じか。




 それはそうとww、先日から、この訳を見ていたらちょっと思ったことがあった。


 捕まっていない連続殺人犯、ゾディアック事件の犯人、あれは黒人だったんじゃなかろうかと思った。


 確か、犯人は白人ということになっていたが、そこには何かの思い込みがあった気がする。

 未解決連続殺人犯として、つとに有名だが、それが失敗だったのではないか。



 ボールドウィンにしても、これが黒人らしい文体かと言われても俺には分からない。

 第一、わざわざ黒人らしさを書く必要もないだろう。





 トランプを引き摺り下ろしてすっかり上機嫌になった連中は、あれだけ騒いでいた「黒人の権利運動」をすっかり忘れてしまったかのようだ。

 所詮はそんなものだ。


 最近は、そういう差別みたいな話でよく嫁と議論することがある。


 いつも俺を怒らせるのは、嫁の「どうしようもないでしょ」という諦めのような言葉だ。

 
 そんなことを議論で〆るな、いちいち投げていてどうする、俺は怒る。

 できること、やれることをするしかないのだ。 俺はそれを馬鹿みたいに言い続ける。



 早くに諦めてしまう嫁。 だから「どうしようもないでしょ」と、嫁は度胸が座っているように見える。

 しかし嫁は、破滅が先に見えていても動かないというだけだ。


 俺はすぐに降りてしまおうとする。ジタバタしようとする。

 結果としては嫁が正しいことが多いが、手遅れになってからでは遅いのだ。



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Save0056




 XXXX ちゃんと訳したボールドウィン
 彼の灰緑色であった目は日の光の中で黄色に見え、とうとうジェスが前にみたことがない
光が、それらの中に宿っているようでもあった。母は髪を押さえ、リボンを合わせ
ようと、カーミラーの方へ体を傾けてのぞき込んでいた。「ちゃんとしてみえるよ」
と父は言って笑った。「黒人がおまえを見たとき」、奴の人生を何でもないものの
ために棒に振ってしまうことを誓うだろう。奴がおまえのところに化けで出ても不思
議はないだろう。」そして彼はまた笑った。
 歌声は今ではおそくなり、終わろうとしていた。そしてジェスは、彼らが目的地
に近づきつつあるのを実感した。彼らはまっすぐで、せまくて、小石だらけで、どっち
の側にも木がはえた道にたどりついた。日光が偉大な高みから、木の葉の間を通
って彼らの上に漏れてきたので、彼らは水の下にいるかのようだった。そして木
の枝が車をかすって凄い音をたてた。彼らの右側や、下方に、今では目に見えない
町が横たわっていて、左側には彼の先祖たちがこの谷におち着くために
横ぎった高い山脈へと導く何マイルもの木立があった。今ではすべてが
静かだったでこぼこ道にはむかってゆれるたいやや、モーターの騒がしい音や泣
いている子供の声をのぞしては → そして彼らはもっとゆっくり動いているように思え
た。彼らは再び登り始めた。彼は前方の車が上へ向かってしんぼう強く骨を
おっているのを見つめた。空き地の日光の中へ見えなくなりながら  」 


 
 ジェイムズ・アーサー・ボールドウィンの代表作、「山にのぼりて告げよ」の訳だったと思う。

 彼はゲイで黒人の作家だ。


 大学の課題だか何かで、俺が遅れて大学に入学した頃のこと、嫁が見ていて俺の仕事を面白がり、手伝ってくれたものだ。

 彼女の直筆ではあるのでとってあった。

 にじんでいるのは万年筆で書いたからだろう。

 
 嫁は英語を喋るのは苦手な方だが、文章を読んだりするのは俺よりもずっと語彙力がある。

 典型的なお嬢さんという感じで、本をよく読む女だ。

 




  いつも、嫁は字の送りが変だ。

 こうして俺への手紙でなくて人の文章を訳するという時でも、こんな風に妙な改行をする。

 頭の中で途切れ途切れにならないかと思うのだが、問題はないらしい。 


 出てくる言葉が自由に飛びまわり、意味をもって嫁には見える。

 この訳にはホコリっぽさや車に乗りながら流れる景色が描写されているが、それは嫁の筆跡からもまるで中性的で、重さをあまり感じない。

 スピード感も訳した文字からは見て取れない。


 こんなんでいいのかと思ったりもするが、それでいいのかも知れない。

 作者はゲイだったから。


 俺の話す言葉も、また彼女の頭の中では途切れ途切れで飛び回っているんだろうか。




 課題を選んだのは嫁だったか思い出せないが、フレディとかマービンゲイとか、ゲイのアーティストを嫁はよく気に入る。

 調べると、ボールドウィンは文体を追求した作家だというから、英語文学の教材としてはよいものがあったのかも知れない。


 嫁は彼らの才能が開くのを楽しく見ているようだ。

 その視線は公平で、妙な関心からでないのは分かる。


 とかくオンナというのはゲイやオカマに興味津々なものだが、嫁の場合はちょっとそれとも違うようだ。

 ただそれでも、連中の生態を話してやると嫁は喜ぶのも確かだw。
 




 俺はゲイでも英文学専攻でもなかったがw、この嫁の訳を大いに楽しんだ。

 二人だけの部屋で俺が何かをやっているのを見ると手伝おうとしたり、話しかけてきて嫁は楽しい。

 まるで小さな娘がいるような気分にもなる。それは今でもそうだ。


 そうしてその大きな体を抱き寄せて愛撫しようとすると、嫌がられる(笑)。



 昨晩、一緒に寝ようとすると妙に機嫌が悪い感じがしたので、俺は真っ暗な中で嫁を問い詰めた。

 すると、「キレイだねなんて言わない」なんて言った。


 不公平じゃないか。


 俺には何と言ってくれるのか、どうかw。



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Save0055



 (島のもう一方のはじに到着して)

して、また橋を渡って、XXXを通り、しばら
くして、XXXが見えるところを通過し、
XXX駅に着きました。予定通りの時間でした。
それから、別のバスに乗って、XXX引きかえ
してきました。
これらのことを旅行の途中ですぐに書きたく
なったのですが紙を持っていなかったのと、
ゆれるのでよしていたら、こんなに遅くなって
しまいました。私は何でもあなたに話していない
とつまらないです。話すと、楽しいことは倍以上に
楽しくなり、話さないでいると、いやなことも倍
以上になるからです。
こちらはXXXよりは湿気が少なく、家の中にい
ると過ごしやすいです。でも私には"やっぱり
家が一番"、崖のうちがいちばんだと思いま
す。だから早く帰りたいと思っています。


   私のファミリーへ

           XXXXX         」




 たった一人の信頼できる人、俺の家族。

 それが嫁だ。

 二人ずっと一緒。




 最近はセックスの件で俺がイラついたもんだから、触ったりすると嫌がっている。

 先日のセックスはなんとか出来てよかったが、もっと楽しめばよかった。


 今夜は、嫁は先に寝てしまい。

 俺は寝付けず独りで記事を書いている。




 実は嫁はお喋りな方ではない。

 口下手ではないが、あまりベラベラと喋る方ではない。

 手紙を書いてくれると饒舌で、意外に思える。

 知り合ったばかりの頃から、俺が何か話はないかと聞くと、嫁は「別に何もないよ」なんてよく言った。


 当然、俺は不安になった。一緒にいて楽しいのか、何かしたいことがあるのか、不満はないのか、言いたいことでもあるのか。

 クチに出してくれなければ気持ちなどそうそう分かりようがない。


 それで俺はよく、「なんかあるだろう」なんて言って、イラついたものだ。




 そうして、そのうちケンカになったりした。

 「今は何か考えてるだろ、頭の中に。それを言うだけでいいんだ。言ってみ。」

 「何もないよ。何も今は考えてないって」

 「そんなことあるか、誰だってそうは無心になんかなれないのに」
 
 「だって、ホントに何も考えてないんだもん」

 「嘘をつくな!何かあるだろ、それをクチにしてみろ」 


 なんてやらかした(笑)。

 まあ泣かせるほど怒ったりしたこともあるから、嫁には笑い事じゃない。



 最近のことだ。映画を観ていて、俺が、

 「何で話さないのかねぇ、自分一人で抱えないで話しておけばこんなことにならなかったじゃねえか。なんでこいつは事情をすぐに話すってことをしねえんだ。」
 
 そんなことを主人公に言った。すると嫁は、

 「それじゃ映画にならないでしょ(笑)」、なんて言ったw。

 相手に話しておくべきことは話す。ホウレンソウだ。

 嫁はもう、理解しているんだろうか。




 深刻なケンカをして、騒ぎになり、それで一度は嫁は実家の方に帰った。

 そうして今回は俺と住み始めて最初の里帰りだった。


 それが始めての長距離バス旅行となり、嫁は見たこと起きた出来事を一生懸命俺に書いてくれた。

 それがこの手紙なんだと思う。


  この手紙が郵便で届き、俺は帰ってきたらちゃんとお前の我が家へお帰り、そんな風に迎えようと思った。

 嫁が帰ってくるのが待ち遠しく、離れていてもとてもいとしく感じたものだ。



 しかし帰ってみれば、嫁はろくにただいまも言わず、俺を駅に迎えに来させることもなく、黙ってとっとと帰ってきたのだったが(笑)。


 
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