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「尊敬してやまない   XXXX さまへ

 こんばんわ。 お元気ですか? 私はたいへん
元気です。 今日も、昨日も終電近くの時間
に帰ってきたのに全く、疲れを感じません。そして
気げんよく仕事をしています。先月の私とは
まるで別人のようです。今ごろは本当に
よい季節ですね。昼間は空も、風も
透きとおっていてさわやかです。いろんなことが
できそうでたのしい気持ちになります。夜になると
冬のにおいがして、少しさびしいですが、部屋に
入ると、落ちついて、やはり、いろんなことができそう
です。 私は今まで、季節が変わったり、その他のこと
に感じたことはなかったように思います。XXX さん
にに会って、何年かして、やっと、私も人間らしく
なれたのだろうと考えました。ひとが変わろうと
するのは、とてもむずかしいことです。思いつきや、
少しぐらいの努力ではとても、変わることはで
きません。 XXXX さんと会うだけで私はこんなに
なれたのだから、あなたはすばらしい人だと
思います。(私は、今まで、それほど努力したとはいえ
ない。)しかし、これからは、自分でやらねば、」   


つづく




 「尊敬」。

 なんだか嫌な言葉に聞こえてしまう。俺はそういうものを拒否してきた。

 愛情と尊敬は両立するんだろうか。そうとも思う。


 それに尊敬は俺の影で言われることではないのか。俺はそんな風に人に評価されたい。

 何かをしている時は懸命になってやっている。

 その時、敬意を示されても俺は失敗が怖くなる。


 俺はヒネクレタ人間なんだろうか。

 それに、俺は彼女に言われるほどよい人間だったろうか、そんなことを考えてしまう。




 彼女が日々大人に、とても大人になってゆくのがわかる。

 落ち着いた手紙は前とはまるで違っているように見える。

 そうか。
 この頃まで何年付き合っていたんだろうか。

 嫁はそんなことを言っているがまだ三年もなかったはずだ。

 だから長い時間を感じていたのだと分かる。


 その上、置き手紙をやり取りするようになってからはまだ僅かの時間しか経っていない。


 俺がアパートを黙って引っ越した。
 その住所を知らせないで、好きなときに嫁のアパートに寄り付くようなことを始めた。

 そんな勝手な振る舞いを俺がするようになってからこのやり取りが始まった。
 


 確かに、知り合った頃は、嫁は季節や色んなことをあまり感じない女だったかも知れない。

 若いなりの忙しさがあったのだろう。


 「冬の臭いがする」なんて言うから、今じぶんの頃だろう。


 彼女は小さなガスストーブを持っていて、コタツとそれで冬を過ごしていた。

 猫のことぶきが尻尾をよく焦がした。



 今夜は彼女はずっと本を読んでいる。推理小説が面白いようで黙って大人しくしているww。

 ラジオがかかっていて、いつもの曲、80'だ。
 お喋りのほとんどないチャンネルだ。

 確かにかすかに冬の匂いがする気がする。


 涼しくなってきた。

  穏やかな、過ごしやすい気持ちのいい晩だ。